愛しきものとの離別
始まりのときはいつかこんな日がくるとは想像すらしていなかった。出会ってから今年で14年目、我が愛車のハイラックスサーフの売却が決定した。
東京にいた頃、もともと乗っていたカローラワゴンに限界が近づいていた。車が悲鳴を上げる中乗り換えが急務となっていたのだが、私は車に対してほとんど興味がなく、走れば何でもいいというタイプの人間だった。
以前購入した軽トラ(そのときの記事はこちら)もそうだが、とにかく安い車を買ってそのまま乗り潰すまで乗り続けて廃棄と同時に買い替える。この軽トラは30万円で購入し、5年半の間稼働してくれた。税や車検を抜いて修理やメンテ代などを含めても月あたり3000円程度でリースしたのと変わらない。
そしてその次に購入した軽トラ(そのときの記事はこちら)も同じ30万円で購入して2年半が過ぎたが、こちらは前回のものよりさらに状態が良く、事故がない限りもっと稼働年数が伸びるだろう。
そんな私が強い思い入れを抱いた数少ないクルマがこのハイラックスサーフという車であり、このクルマに関しては全てに愛着を持て、恐らく動かなくなるまで一生でも付き合っていくものと信じて疑わなかった。
それはこのクルマを購入した経緯にも因があるかもしれない。というのも、これは私が今の妻と入籍するときに購入したもので、今の家族の全ての思い出が詰まっていると言っても過言がないような車であるからだ。
その思い出を少しピックアップしながら話すことで、このクルマとの別れを惜しみたい。このブログをご存じの方はお分かりだろうが、私は今の安芸高田市に越してくるまではかなりのアウトドア志向の人間だった。
このブログの一つのテーマでもある(最近更新できていないが)日本の淡水魚を追い求める旅にその活動のほとんどを費やしていたのだが、その活動の半分くらいはこの車が担ってきた経緯をもつ。
特にデジカメ等で写真を撮りだしてからの記録はほとんどこの車でのことが多く、それを含めてアウトドア活動をしていたときに重宝したのが左の写真にある広いラゲッジルームで、この中には釣り道具一式、潜水道具一式、ウェットスーツや着替え、網や小型水槽など魚を捕獲する道具一式、車中泊する際の専用網戸やシェードなどを常備しても問題ないほどの容量だったと思う。
そしてこのクルマは後ろの窓(後部シートの窓ではなく)が自動開閉するパワーリアウィンドウが標準装備されていた(写真の通り上下にスライドしてバックドア下部に窓全部が収納される)。
私はしなかったが、ちょっとした長物(スキー板やスノーボード等)で車長からはみ出してしまうときに開けて収納できたり、後ろ向き駐車でバックドアを開けないときに窓から荷物を出し入れできる、現行の国産では恐らくこのクルマだけの特権といえる装備があった。
車中泊する際には後部シートを倒してスペースを広げると、人ひとりが寝るには充分すぎる空間が拡がる。タイヤカバーが邪魔ではあるため、人ふたりとなるとだいぶ手狭な感じになってしまったが、それでも工夫次第で快適に過ごすことができる。
倒したシートとラゲッジルームの間にはちょっとした段差があるため、この段差を埋めるようなクッション材を入れ、その上に更にマットを敷くと快適なもので、妻ともよく泊まったが、共にアウトドアに出向いた友人と泊まることも多々あった。
このクルマはサンルーフも備えていた。他の車のサンルーフがどういう構造か興味はないが、このサンルーフは写真のように前から後ろにスライドして全開する機能の他に、ルーフの後ろだけを持ち上げる機能も備えられており、当時愛煙者だった私には煙の排出を高速道路走行中であっても効率よく行ってくれるこの機能を多用したものだ。
天気の良すぎる日は暑すぎるから開けないが、天候を選んで開放すれば快適な風が通り、先ほどのリアウィンドウの開放と合わせれば抜群の風通りを楽しむこともできる。
そんなクルマとなぜ別れる決意をしたかというと、安芸高田市に移住して軽トラを購入して以降、乗る機会をほとんど失ってしまったからである。東京で購入したときに48000kmだった走行距離が、こちらに来たときには約10万km、結果東京時代は概ね1年で1万km走った計算になる。
全て個人的使用と考えればそこそこ走っている方だろうと思うのだが、写真にある通り、こちらに来てからの走行距離は移住後8年の間に1万kmにも満たない寂しい結果となった。
理由は、私が住んでいる田舎ではとにかく目的地までの走行距離が長く、この燃費の悪いクルマではコストが膨れ上がって効率が悪いからで、次いで大型乗用車であるため、狭い道の多い田舎では通るのにも離合するのにもUターンするのにも難儀する。
それがハイラックスサーフの特徴でもありメリットとの裏合わせでもあるところだが、どこか長距離にでも出かけない限り汎用性の高い軽トラしか運転しなくなることも理由の一つだった。
それに加えて長距離移動には妻の燃費の高いクルマがあり、そちらを使うとガソリン代も3分の1で済む。要はハイラックスサーフという車は高級車並なのであり、それら色んな理由があって私の暮らしぶりとは合わなくなっていたことが大きい。
これらが決断を下した理由である。愛着あるクルマだけにほとんど乗らなくなってからも数年間決意できなかったのだが、自動車税で毎年66000円、2年車検で約10万円が飛ぶ。移住後ここまで累計で100万円近い額が乗らない車に費やされていた計算だ。
私自身、今はヘルニアを患っていて坐骨神経痛に悩まされている。これは回復するまで仕事に復帰できない程度の障害を負っているに等しく、かつ早期の回復も現時点で期待できそうにないため、今後の仕事を再考するフェーズにある。
以前古民家ブログで納屋の方を民泊施設にするかもしれないとお伝えしたことがあったが、それは現在の自分の身体を鑑みて今後の仕事も覚つかない現状もあり、8割方実現の方向で動きだすような気がしている。
今回の決断が資金の節約と調達を同時に実現できることが今の私にとっては大きく、今後を前向きに生きる上で不可欠なことでもあったことが苦渋の決断を下すに至った最大の背景であった。
想いが詰まった愛車だったが、売却決定後これが最後の運転とばかりにガソリンのある限り運転した。惜別の意に堪えないが、一つだけ留飲を下げたことがある。これを購入した当時の中古車価格と同額以上で売却できたということだ。
購入して14年も経ち、車体の四隅に傷も出来、補助ミラーも折れ、塗装も一部剥がれかけているところもあり、釣り道具などの長物を常備するためにつけた装備によって後部フレームカバーがガバガバになっており、何より補修歴のあったクルマであった。
それでも14年前に購入したときと同じ評価額だったことが、このクルマの価値が衰えないことを物語っている。今回の売却先では店頭販売してもらう約束だが、この車は現在特に海外で強く支持され、我々の新婚旅行先であったケニアでも複数見かけた。アフリカでは走破能力とエンジン耐久度が異常に高いこのクルマは日本国内よりも高く売れるらしい。
走行距離は10万ちょっとで、普通の車で考えるとガタが見えてくる数値だが、実際の稼働年数や市場に出回っている同型のものと比べてもかなり少ないほうで、これまでエンジン系のトラブルは一度もなく、40万kmくらいは問題なく走ると言われるこのクルマにとっては価値をより高める効果しかないのだろう。
コロナ以後爆発的に中古車市場が跳ね上がり、本来であれば今から1年前くらいが最も売り時だったのかもしれないが、それでも一部の車は高値で推移しており、このタイミングであったことも売却を決断した背景にあった。
思い出が溢れすぎて収拾がつかなくなりそうなのでこのへんで筆をおくことにする。
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