物件購入の顛末B
ここで作者が行った提案とは、つまり完全なる不良債権になるであろう山林をもらう代わりにもう少し金銭的に譲歩していただけないかというものだ。今後の金銭的な流れを考えると、必要なものに関しては地目の変更や、土地・建物の登記移転などに数十万の金額がかかってくることが予想される。
通常はこういった登記などの諸手続きに掛かる費用は買い主が負担することが一般的だが、今回のケースではこの費用を基本全額所有者の方で負担していただきたいという交渉だ。もしそれで了承いただけるなら、山林の全ての権利と敷地内にある全ての動産の処分などをこちらが引き受けるという内容。
ダメ元で交渉してみたこの提案だったが、所有者はこちらが驚くほど簡単に諾という結論を下してきた。これには作者も不安になり、手続や費用など場合によっては売値である50万円を上回ってしまう可能性がある提案ですよと再確認したほどだ。
その確認に対しても所有者の返答は全く変わらず、「とにかくあなたのような人に買ってもらいたいし、こちらも家が遠くてできない面倒事を全部そちらがやってくれるのだから望むところです」とこちらがキツネにつままれているのではないかと思うような言葉をいただく。
作者としては、もちろん所有者に赤字になるような取引は全く望んでいない。そのため、この条件で話を進めていくにせよ、登記に関する手続きの大部分を司法書士に依頼するのではなく、所有者の合意のもと作者自身が代行してやっていくという決意を固めた。仮に赤字になるとしたら、全て作者側が負担するよう、数十万の上澄みを見込んでの決断をする。
このような形で交渉が成立し、所有者であるMさんも当初は不動産屋に売却依頼をしてすぐ静岡に帰る予定だったが、今回このような形で決まったからにはこちらにいる間にできるだけの手続きをして帰りたいと思われるようになる。これを境に作者と数日間毎日一緒に手続きなどに奔走することとなったのだが、Mさんは身一つでこちらに来ていたため、車の提供や数日しのげるような食料品の買い出しなど作者が一緒に行える部分の協力を行う。
具体的にまず最初にやったことは、土地・建物の登記簿謄本を法務局へ取りにいくことだ。交渉の中で確認したのだが、Mさんによると所有権は全てMさんになるよう過去に手続きを行っていて、粗大漏らさず晴れてすぐにでも取引できるとのこと。
しかし、そう簡単に良い方向だけに進めないのが不動産売買の怖いところなのであろう。実際に謄本を取得してみると、すぐに取引できない状態であることが判明する。作者への売買をするにあたって、2つの大きな問題が立ちはだかった。
まず一つ目として、現況としての建物が3棟あり、それぞれ母屋・納屋・倉庫で固定資産台帳に登録されているのだが、登記簿上ではそれらの建物が全て存在せず、代わりに茅葺屋根の建物が2棟ほど建っている状態であった。しかもその2棟の建物はそれぞれ所有者が異なっており、一つはMさんの祖父の名義であったが、もう一つの方は全く他人である近隣の方の祖父の名義となっている。両方ともすでに故人である。
もう一つの問題としては、現況として母屋などが建っている宅地と思われた土地が実は4つの分割された土地の集合体で、さらにそのうちの2つの土地が「田」と「畑」になっていたため話がややこしくなる。またその他の土地にも「畑」となっている筆がいくつかあるのだが、それらの全てが現況として植林されてあり、事実上「山林」になってしまっているため登記移転の最大の障害となることが予想された。
一つ目の問題は昔の古い家などでは本当に多い事例で、私が自身で取引した中でも数軒該当するケースがあったほどなのだが、建物の名義が故人のものになっているケースではその建物を第三者へ売買(登記移転)することが簡単には行えない事情がある。
故人の相続権を有する全員の許諾が必要になるのがその理由であるが、特に昔の田舎や農家においては子供が多い大家族が多く、故人が父親であるなら兄弟だけの話で済むが、それでも7〜8人兄弟などというのが昔はざらにある。さらに故人が祖父などという話になってくると、父母の兄弟全員とその子供たち全員も対象となってくる。
こんな感じで名義が古い人であればあるほど、ほとんど絶望的な数の人間の承諾を必要とする。その家族の中にもし一人でも不仲であるとか絶縁状態のものがいるとすればそれだけで登記移転など不可能な話になってしまう。
だが、実はこちらの問題はさほど大したものではなく、作者の杞憂に終わる。上記の許諾云々の話は故人名義の建屋が残存していてかつそれを売買する場合での話であるからだった。
今回のケースでは故人名義の建物が登記簿上存在するが、現況としてその建物は残存していない(過去に壊したことが想定される)ため、建物を壊しましたという「滅失登記」をしていないだけの状態であった。そのため、正統な相続者であれば独断で滅失登記をすればいいだけの話であった。
ただし、前述のとおり、2棟の母屋の名義人のうち一人は所有者の祖父であるためすぐに滅失登記手続きができるが、もう一人の方は赤の他人の祖父になっているため、その子孫である方に滅失登記をしてもらえるよう依頼する必要があった。
これがたまたまなのか必然なのか、その子孫である方が所有者(Mさん)の幼馴染であったため話がしやすく、すぐに手続きをするための協力をしてくださった。今となってはどちらにどんな理由があってそのような形になっていたのか誰もわかるはずもなく、それだけに無事手続きができたことに胸をなでおろす。
問題はもう一つの方の宅地と思っていた一部が農地となっていることだ。植林して事実上「山林」になってしまっている6筆の畑にしろ、所有者(Mさん)のご先祖が無許可・無申請で勝手に建物を建てたりしてしまっている状態になっているということで、農業委員会にもし原状復帰するよう指導された場合はほとんど不可能なため全ての話がなくなってしまうことも充分あり得る。
それほどに日本国内での農地の取り扱いというのは法に縛られて(守られて)いる。このままの状態では農地法により作者への所有権移転ができないため地目変更を行う必要があるが、それができれば登記移転自体は簡単に行える。問題は地目変更にあたって農業委員会の許可がもらえるかどうか、である。
作者と所有者はすぐに近隣の司法書士事務所に向かい、まず2棟の滅失登記依頼を行った。その後、地目変更が可能かどうかと、可能であればどのような手続きが必要になるかを問うべく、市役所内にある農業委員会へ向かう。
農業委員会によると、農地を勝手に植林してしまっているものに関しては登記簿上が田畑であっても、現況として畑に戻すことが不可能な状態であるため「非農地証明」というのを行えば現況の地目(この場合山林)に変更できるとのこと。証明には委員会の許可が必要だが、毎月行われる会議ですぐ許可が降りるとのこと。
問題はやはり田畑を無断で宅地にしてしまっている部分であり、この部分に関しては、この地域が「農業振興区域」というものに該当するため簡単にはいかないが、現況として田畑への原状復帰がほぼ不可能であると判断されるケースのため、農業振興区域であることを除外する「農振除外」というのを申請すれば9分どおり許可が降りるだろうとのことだった。
ただし、農業委員会の会議とは違い、振興区域に関する会議は年に3度ほどしか行われず、次の会議に諮られて許可が出るとしても最短で半年後になる上、申請者である所有者と作者が連名で始末書を提出しなければいけないというかなりショッキングなものであった。
関連ページ
- 古民家イメージ
- 農村や古民家といわれる場所のイメージが伝わるような写真をピックアップし
- 作者が考える古民家とは
- 古民家を見てきましたが、場所は違えど概ね共通することは何かを挙げてみよう
- 作者の条件・希望
- 古民家での生活を目標に動いている作者がどんな条件をチェックしながら物件を検討しているのか
- 見積もりを出し予算検討
- 具体的な金額設定と検討内容を紹介していきます
- 物件購入の顛末@
- ここでは、私(作者)が物件を購入するに至った経緯などを記述しています。
- 物件購入の顛末A
- 集落の顔役であるN氏により集落中の空き家の案内を受ける作者。
- 物件購入の顛末C
- 当初は売る側買う側ともに前のめりですぐにでも取引成立とも思われた物件だったが、やはり思わぬところに落とし穴が待っていた。
- 物件購入の顛末D
- ネットなどを駆使しながら契約に関することを調べ、それなりの契約書が出来上がったのが約2週間後のこと。
- 物件購入の顛末E
- 前回までの話で息子と関わることで物件全体の負の印象が強くなってしまい、今後は購入の見合わせと両天秤で考えていくこととなる。
- 物件購入の顛末F
- 気持ちを整理するため、前回の息子のメールより2日間を空けて所有者に電話。
- 物件購入の顛末G
- 断りを入れてから2日が経過し、何のレスポンスもないことを確認したため、交渉決裂と判断し、所有者本人に入電する。
- 物件購入の顛末H
- それから3日が経過。まだ作者の中でどのような形で決着をつけるのか決めかねていたが、所有者(Mさん)に電話をしてみた。
- 購入物件の総括
- 今回は、私が購入した物件がどの程度希望に近いものなのか、はたまた遠いものだったのか、希望として挙げていた項目ごとに寸評してみた。